無麻酔除脳ネコにおいて、調和周波数成分からなる複合音刺激に応答する下丘中心核フィールドポテンシャル波形の記録・解析を行った。正弦波的振幅変調音および周波数変調音刺激(搬送周波数:変調周波数=4:1)に対していずれも定常的な振動を有する応答波形が誘発され、その振動波形は周波数解析により刺激音の変調周波数領域に著明なスペクトルピークを持つことがわかった。この振動応答は刺激音の各周波数成分の純音刺激および変調周波数の純音刺激では誘発されず、聴覚中枢情報処理過程で生成される非線形応答であることが示唆された。また振幅変調音の振幅スペクトルを保ったまま位相スペクトルのみを変化させて刺激を与えた場合でも、常に振動応答が誘発され、その応答波形の形状には変化が見られたがスペクトルピークは変調周波数領域に存在した。すなわち振幅変調音および擬似周波数変調音のいずれの刺激に対しても同様の振動応答が誘発されたことから、これらの振動応答は刺激音波形におけるエンベロープ周期を含む種々の周期性に対する時間的応答であることが示された。またこれらの振動応答は刺激音の変調周波数が500Hz以下であるときに著明に観察された。刺激に用いた複合音の聴覚ピッチ知覚はその基本周波数である変調周波数に一致するが、これらの複合音刺激に対する振動応答の著明なスペクトルピークが変調周波数領域に存在したことから、ピッチ知覚を生成する聴覚中枢の神経符号化メカニズムとして、下丘を含む聴覚中枢ニューロン群における複合音の基本周期に位相固定した同期活動による時間的コーディング機構の可能性が示唆された。
|