慢性副鼻腔炎手術症例より摘出した鼻茸を病理組織学的に観察し、鼻茸の発生・増殖機転について検討した。鼻茸の組織学的特徴は、上皮層における多列線毛細胞と扁平または円錐細胞の混在と、うっ血・浮腫の著明な間質内への炎症細胞(好中球や好酸球あるいはリンパ球など)の浸潤であった。一方で、幼弱(未分化)な上皮細胞が間質に向かって分裂・増殖している所見も所々にみられたが、そのような部位の上皮下間質内には、通常の分泌腺とは形態的に異なった拡張した腺管構造が存在した。ここで各種レクチン染色(UEA-I、ConA、WGA、PNA、MAA)を行い、以上のような組織像を示す鼻茸における糖蛋白末端の糖質の分布を調べた。マンノースやシアル酸、ガラクトースの分布については、特記すべき所見はみられなかったが、フコースの分布については、以下のような所見がみられた。すなわち鼻茸上皮層において、表面に存在する上皮細胞よりも間質に向かい発育している上皮細胞のほうが、UEA-Iの染色性が低い傾向があるが、間質内に存在する拡張した異型分泌腺の上皮細胞は、鼻茸表面の上皮細胞と同様のUEA-I染色性を呈していた。糖蛋白糖末端へのフコース転位は、細胞の成熟度を示す指標の一つとされていることより、鼻茸上皮の一部の細胞が何らかの機転で幼弱細胞へと脱分化して間質内に陥入し、その後再びその場で分化・増殖した結果、間質内の異型分泌腺が形成されると考えた。このように、上皮細胞の上皮下への発育機転が、間質内の粘液貯留などを介し、鼻茸の増殖・増大に関与している可能性が示唆された。
|