研究概要 |
筋芽細胞の発育分化に関しては、これまで様々な点から検討がなされてきた。しかし、鰓弓筋群の細胞生物学的特性は報告も少なく、不明な点が多かった。本研究課題である「鰓弓筋の発育と筋蛋白質の分化」の中で、ミオシン重鎖の1, 2a, 2b, 2dが発生過程において四肢筋とは明らかに違う過程をとって出現することを明らかにした。さらにこの事はRT-PCR法やin situ Hybridization法を用いたmRNAの発現と比較した。そして分化の過程でmRNAは発現していても必ずしもそのタンパクを作らないことや、成獣では存在しないタンパクが成長の起点となっていることを明らかにした。この起点となる蛋白は、MHC-1で、出現する時期は鰓弓筋である咬筋で特有の経過をとることが判明した。これは実験的に損傷させた筋の損傷部に出現する初期の筋収縮蛋白のアイソフォームを捕らえる実験や、筋ジストロフィーによって壊死した筋細胞が再生する過程で出現する実験で明らかにし、論文にまとめ報告した。我々はこれらの実験結果が、吸啜、離乳から捕食、そしてその後の咀嚼運動の確立と、四肢筋にはない摂食機能の変化に対応するために備わったものであると考えている。このことから、嚥下領域に範囲を広げ、摂食・嚥下領域の骨格筋は四肢を構成する骨格筋群とは違う特徴を分子レベルで明らかにできると考えた。そして、マウス舌筋について、上記と同様の手法で、ミオシン重鎖の1, 2a, 2b, 2dの出現を観察したところ、発育過程の中で、舌筋それぞれが機能に即した合目的な性質の変化を呈していることが明らかとなった。以上のように本研究期間の研究結果により、鰓弓筋は他の筋よりフレキシブルな性質を持ち、発育、分化の過程で特有の蛋白出現を呈する可能性の一端を知ることができたと考えている。
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