研究概要 |
昨年度までの研究で、(1)骨基質由来IGFがヒト乳癌細胞MDA-MB-231(MDA.-231)細胞の増殖を強力に促進すること、(2)MDA-231細胞にIGF I型受容体(IGFIR)遺伝子を導入した細胞(MDA-231/IGFIR)が骨転移形成の促進を示したこと、を報告した。今年度はこの結果をさらに発展、検証する目的で、まず、MDA-231細胞にドミナントネガティブ型IGFIR遺伝子を導入した細胞(MDA-231/486STOP)を樹立し、その骨転移形成能を動物実験モデルを用いて検討した。その結果、MDA-231/486STOPでは骨転移形成が有意に抑制され、加えて、骨転移巣における癌細胞のアポトーシスの増加と細胞分裂の減少が認められた。 次に、IGF-1の乳癌細胞のアポトーシスに対する役割をさらに検討する目的で、アポトーシスの抑制に関与する分子であるAktとNF-κBの活性化に対するIGF-1の関与をin vitroで検討した。その結果、MDA-231において、IGF-1がAkt、及びNF-κBを活性化すること、また、この活性化がMDA-231/486STOP細胞では阻害されることが明らかとなった。 さらにIGF-1によりNF-κBが活性化されたことから、骨転移におけるNF-κBの関与を検討するために、ドミナントネガティブ型IκB遺伝子をMDA-231細胞に遺伝子導入した細胞(MDA-231/IκBαΔN)を樹立し、骨転移形成能を検討したところ、MDA-231/IκBαΔNでは骨転移形成が抑制されることが示された。 以上の結果から、骨基質由来IGF-1が癌細胞の増殖の促進と、Akt, NF-κBの活性化を介したアポトーシスの抑制により骨転移の形成,進展の促進に重要な役割を果たすことが示唆された。
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