研究概要 |
マウスSir2 homolog-1,2,3のそれぞれとEGFPとの融合タンパク質を過剰発現させたNIH3T3細胞株で観察された細胞死及び増殖停止は、FLAG tagとの融合タンパク質では観察されなかったことから、実験系のアーチファクトであることが考えられた。そこで、出芽酵母ではSir2 homologの一つであるHST1とRad27が遺伝学的に相互作用することが明らかにされているので、哺乳動物Sir2の機能にせまるために、まずヒトにおけるRad27のホモローグであるFEN1をクローニングしその機能を検討した。培地中のテトラサイクリンの存在の有無により遺伝子発現の調節を可能としたベクターにヒトFEN1 cDNAを挿入したものを、ヒト膀胱癌由来細胞株であるT24にトランスフェクションし安定な株を単離した。FEN1については、野生型、ヌクレアーゼ活性欠損型、及び、ヌクレアーゼ活性とPCNA結合活性の両方を欠損した型の3種類を用いた。それぞれを導入した細胞株の細胞増殖及びアルキル化剤であるMMSに対する感受性の変化を検討し、以下のことを明らかにした。 ・FEN1は核内に存在した。 ・S期には、核内において界面活性剤及び塩による抽出に耐性のクロマチン分画に存在するようになり、その局在はPCNAと一致した。 ・ヌクレアーゼ活性欠損型、これはドミナントネガティブ型として機能すると考えられるが、細胞増殖には影響を与えなかった。 ・G1期において、MMSの添加により界面活性剤及び塩による抽出に可溶性の分画から非可溶性の分画に移行するようになり、その局在はPCNAと一致した。またその局在にはFEN1のPCNA結合領域を必要とした。 ・ヌクレアーゼ活性欠損型発現細胞株は、MMSに対する感受性が野生型発現株に比べて非常に高くなった。また、その感受性はPCNA結合領域を破壊することにより、野生型のレベルまで戻った。 ・ヌクレアーゼ活性欠損型発現細胞株ではMMSにより引き起こされるDNA損傷の修復が遅延していた。 ・ヌクレアーゼ活性欠損型発現細胞株ではMMSの添加によりS期進行の遅延及びG2/M期での長期の停止が観察された。 ・ヌクレアーゼ活性欠損型発現細胞株ではMMSの添加によりChk1がコントロール比べて強くリン酸化され、また低リン酸化型Rbが増加した。またその状態が長期に保たれていた。
|