研究概要 |
義歯粘膜面に付着するデンチャープラークは,口腔内においていわゆる菌のリザーバとしての役割を果たし,特に,抵抗力の減退した高齢者の全身への持続的な感染源になることが強く指摘されている.この問題を解決するために,義歯床用材料に抗菌性を付与することを着想し,持続的な抗菌性と防臭性を兼ね備えた無機系抗菌剤である銀ゼオライトを義歯床用材料に添加することを試みた.しかしながら,口腔内に装着の際は,常にヒト唾液に曝されており,ヒト唾液に浸漬した場合,唾液中タンパク,脂質,糖質をはじめとした様々な有機成分とナトリウムイオン,カリウムイオン,塩化物イオンなどの無機成分が,抗菌効果の発現に影響を及ぼすと考えられる. 平成13年度は,義歯床用材料に銀ゼオライトを2%添加し,蒸留水またはヒト唾液に長期間浸漬した場合においても効果が発揮されるか否かについて検討した.対象菌は,誤嚥性肺炎および義歯性口内炎の起因菌Candida albicans, Staphylococcus aureus, MRSA, Pseudomonas aeruginosaおよびStreptococcuss constellatusの5菌とした.ヒト唾液は3人のボランティアの安静時全唾液を採取し,ミリポアフィルターで濾過滅菌した.各試料を蒸留水またはヒト唾液に7または28日間浸漬後,37℃湿潤下にて菌液を24時間作用させた後,生菌数(CFU)を算定した.その結果,ヒト唾液浸漬によりP.aeruginosaに対する抗菌効果は認められず,また,S.constellatusに対する効果も減じられた.そこで,試料表面に付着した唾液中タンパクを評価した後,義歯洗浄剤で試料表面のタンパク除去を試みたところ,P. aeruginosaに対する抗菌効果が回復した.したがって,臨床においては,義歯洗浄剤との併用が抗菌効果の発現に有効であることが明らかとなった.
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