研究概要 |
生体内組織に存在するヘム蛋白質の構造を人工的に変え,象牙質の接着に有効な接着システムを開発することを目的として実験を行った.まず,ヘム含有物質としてヘマチンを用い,メタクリロイルイソシアネートと反応させ,赤外分光光度計を用いて組成を確認した.その生成物(MIP)を35%メタクリル酸2ヒドロキシエチル(HEMA)水溶液に溶かして,象牙質用プライマーとした.試作した接着システムは,10%リン酸水溶液のエッチング剤,プライマー,接着剤(4-META/MMA-TBBレジン)の3つから構成された.牛象牙質を研削し,エッチング剤とプライマーで処理し,金属棒と接着して24時間37℃の水中に保管した後,引張り試験を行った.その結果,接着強さはエッチングだけの場合は4.2±2.0MPa,エッチングに続いてHEMAだけのプライマーを塗布した場合は8.7±4.3MPa,0.07%MIPを含む35%HEMAプラィマーの場合は16.3±2.7MPaであり,MIPによって接着強さが著しく高くなることがわかった.この値は,MIPの代わりに0.5%塩化第二鉄を使用した場合の15.6±2-3MPaとは同等であるが,0.01%チトクロームc遊使用した場合の24.6±4.3MPaと比べると有意に小さかった.また,実験によってMIPの持つ鉄が重合を促進することと,HEMAが脱灰象牙質表層へのレジンの浸透を促進することが,高い接着強さに寄与していることが示唆された.MIPのメタクリル基は他のレジンと共重合する可能性が極めて高い.さらに,チトクロームcをメタクリロイルイソシアネートと反応させた実験を開始し,被着体金属側からの接着破壊を防ぐ実験も行っている.本研究の一部は,学会発表し,現在論文として投稿中である.
|