研究概要 |
前回,我々は片側筋痛患者の左右咬筋部の深部温を測定・観察し,疼痛側の深部温は健常側と比べて高いことを報告した. その結果を受けて今回は,片側筋痛患者の左右咬筋部の血流を測定・観察し,疼痛のメカニズムについて検討した. 対象は除外診断で顎関節症と診断され,MRIにて関節円板に異常を認めず片側咬筋に疼痛を訴える女性患者で,研究参加への同意の得られた10名(患者群)と咀嚼機構に異常を認めない女性健常ボランティア10名(健常者群)を用いた.なお,除外基準は貧血,循環器障害の既往,疼痛側の特定が出来ないものとした.また,計測部位は左右咬筋の中央部とした. 血流は近赤外線スペクトロスコピー(PSA-III N)を用いて計測した. 患者をデンタルチェアーにリラックスした状態で20分間座らせ,その後,左右咬筋部の血流を5分間測定した.2台の機器を用いているため左右を入れ替え,さらに5分間計測した. 測定項目は酸化Hb,還元Hb,総Hb,組織酸素飽和度である.データーは2組の測定結果から任意の1分間ずつ,計2分間を選択した. 患者群と健常者群で血液検査によるHb値およびBMIに差は認められなかった. 血流検査の結果では,咬筋痛を有する顎関節症患者の有痛側咬筋は健常者と比較して差はないが,組織酸素飽和度が有意に低下していた. これまで,筋痛のメカニズムとしてスパズムなどによる筋の虚血が挙げられてきた.しかし,今回の結果では有痛側の血流低下は認められなかった. 前年度・今年度の結果から,有痛側では咬筋の過活動が生じているものと考えられた.
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