研究概要 |
目的 近年,短縮歯列を基盤とする補綴処置が論議され,ヨーロッパ諸国ではその考えが実行されているようである.しかし,現代社会環境の複雑性が時として短縮歯列に対して顎機能障害を引き起こしていることは否定できない.そこで,顎機能に異常がなく,臼歯部の歯冠修復処置を必要としている被験者において,後方より順次咬合の支持域を失わせ,両側顆頭の咬合時の変位量ならびに変位方向を測定し,咬合が確立している状態と比較し,咬合支持域の変化が下顎顆頭にどめように影響するかを測定する.このことにより短縮歯列に対する考え方を含め,咬合支持域の安定性を検討する. 結果 補綴物を除去した時の両側顆頭の変位量は,除去前と比較して,除去していくに従い増加する傾向を示した.一方,顆頭の変位方向は咬合支持の有無に拘わらず上方から前上方となった. 最大噛みしめ時の咬合力については,咬合支持が完全に確立している場合に対し,咬合支持を喪失させるとともに咬合力は徐々に減少して行く傾向を示した. 今回の実験結果から,後方臼歯部の咬合支持域減少症例において,過剰な咬合力が加わった場合,顆頭が変位しやすいタイプとあまり変位しないタイプとが存在することが認められた.変位しないタイプでは大臼歯部が喪失しても,顎関節部に大きな負荷が加わるとは考えにくい.これに対し,変位しやすいタイプは,咬合支持域が第二大臼歯まで存在する場合と比較し,顎関節部に与える負荷は大きくなると考えられる.しかし,生体のもつ適応能力,あるいは防御機構の働きにより,全ての症例で顎関節部の退行性変化が生じるとは考えにくいが,何らかの機能的,感覚的変化が生じる可能性も大きいことが示唆された.
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