義歯は金属、アクリリックレジン、硬質レジンあるいは陶材などが組み合わされ、必ず異種材料の複合体として作製される。これらの材料は熱膨張係数が各々異なっているため、温度変化が激しく湿度100%の口腔内では、材料間に繰り返し応力が生じ、義歯は疲労してついには劣化や破損に至るものと思われる。 一方、義歯の金属構成要素と床用レジンの接着耐久性を評価する場合、高温槽と低温槽の水中に交互に浸漬するいわゆる水中熱サイクル試験が行われる。しかしながら、界面への水の浸入と熱的衝撃が接着強さを低下させることが経験的に知られているだけで、その関連について検討されたことはほとんどない。 そこで、義歯の温度変化による劣化の挙動を把握し、各材料の熱膨張差に起因する義歯の疲労や破損を接着技法の応用と構造的な工夫によって防止するための具体的な指針を得ることを目的に、本研究を計画した。 平成12年度は、義歯の構成要素単体の熱膨張係数を測定し、その結果それぞれの数値は成書の記載と矛盾がない事が解かった。平成13年度は、熱膨張係数の判明した材料同士を接着させ、水中熱サイクル試験を行い、接着強さの低下傾向を調べ、熱膨張係数との関連について検討した。その結果、熱膨張係数の差が大きいほど接着界面の劣化が早く進行するとはいえないこと、床用レジンは硬質レジンに比べて界面の劣化が数倍早いことが明らかとなった。予想に反し硬質レジンの熱膨張係数は比較的小さいこともわかったが、総じて義歯の劣化に及ぼす熱膨張係数の差の影響は大きくなかった。科学研究費補助金申請の当該年度内に、義歯の構造的な工夫による劣化の防止策の提示までは至らなかったので、今後も本研究の継続が必要である。
|