口腔の感染性疾患の病態を把握し、的確にリスク診断を行うためには、口腔内の微生物の動態・病原因子の局在についてモレキュラーのレベルで迅速に検出・定量することが必要である。本研究においては分子生物学的手法の一つであるPCRを用いた口腔細菌の同時検出法Multiplex PCR法ならびにin situ PCR法の開発の基礎研究を行なったが、対象が臨床試料中の細菌DNAであり、そのテンプレート濃度が僅少となり、また他の口腔細菌の來雑により検出感度が十分に上がらないことが多いことが判明した。そこで、その点を克服すべく、ユニバーサルプライマーによるPCR反応産物をテンプレートとして菌種特異的PCRを行なうNested PCRを行った。歯肉縁上歯垢10例及び歯周ポケット内容液15例を採取し、試料中の細菌DNAをmutans streptococci等の齲蝕関連細菌及び偏性嫌気性グラム陰性桿菌等の歯周病関連細菌に特異的なプライマーによるNested PCRによって増幅・検出した結果、通常のPCR法に比較して感度よく検出できることが判明した。また同時にDNA検出限界が100 attoグラム程度と通常のPCR法の百倍から千倍にまで上昇することが判明した。この傾向はNested multiplex PCR法においても反応が阻害されることなく同様に得られた。口腔の細菌菌種及び細菌病原遺伝子特異的なプライマーの種類は、現在のところ限られているが、本法は高感度に口腔内試料中のターゲットDNAを検出できることから、臨床における病態把握及びリスク診断の一助となる可能性が考えられた。
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