愛知学院大学歯学部小児歯科学講座所蔵の試料のうち、Hellmanの咬合発育段階IIA期〜IVA期までの歯列模型が3組以上あり、同時期に撮影されたオルソパントモグラムを有する症例を対象とした。また前歯部に先天性欠如歯または著しい叢生、反対被蓋や過蓋咬合がみられるもの、歯列または顎骨の側方拡大を行った既往のある症例を除外した7症例を用いた。 (1)上下顎犬歯咬頭頂間距離の計測:犬歯が未萌出の場合、模型上とエックス線写真上の乳犬歯近心最大豊隆部間距離の比からエックス線写真の倍率を求め、エックス線写真上の値を補正した。犬歯が萌出している場合は模型上での実測値を用いた。 その結果上顎ではIIA期からIIIA期にかけてあまり変化しないが、その後の増加は著明であった。下顎では一定した変化の傾向はみられなかった。 (2)上下顎左右犬歯軸のなす角の計測:エックス線写真上で、咬頭頂と歯頸最狭窄部を結んだ線の中点を通る線を歯軸とし、両側犬歯の歯軸がなす角度を計測した。 その結果上顎ではIIA期からIIIA期にかけて著明に近心傾斜がおこり、その後やや遠心傾斜する傾向がみられた。下顎ではIIA期からIIIB期にかけて著明に遠心傾斜がおこり、その後やや近心傾斜する傾向がみられた。 (1)、(2)より、上顎犬歯はIIA期からIIIA期にかけて、顎骨内で第一大臼歯の萌出および第一、第二小臼歯の発育により、歯軸を近心に傾けるが、顎骨の側方への拡大により咬頭頂間距離はあまり変化しない。その後遠心傾斜しながら咬頭頂間距離が増加するのは上顎4前歯の歯冠近遠心径が大きいためではないかと考えられる。 一方下顎犬歯の咬頭頂間距離の変化にあまり一定した傾向がみられなかった点については不明だが、IIA期からIIIB期にかけての著明な遠心傾斜は、上顎に比べて顎骨内で側方歯部のスペース的余裕があるためで、その後の近心傾斜は上顎犬歯から咬合圧を受けたことよるものではないかと考えられる。
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