研究概要 |
1)「歯肉組織におけるアポトーシス細胞の検出」 歯周炎患者から採取した炎症歯肉組織のパラフィン包埋切片を作製し,TUNEL法によってアポトーシス細胞を検出した。その結果,炎症歯肉組織に局在するリンパ球にはアポトーシス細胞はなかった。 2)「歯肉由来リンパ球のアポトーシス関連分子発現の解析」 炎症歯肉組織から分離したリンパ球(歯肉由来リンバ球)および末梢血リンパ球を可溶化して,細胞質内蛋白であるアポトーシス抑制分子(Bcl-2,Bcl-xL)の発現を比較したところ,歯肉由来リンパ球における蛋白発現はBcl-2,Bcl-xLともに末梢血リンパ球に比べ顕著に低かった。一方,歯肉由来リンパ球における細胞膜アポトーシス誘導因子[Fas,Fas-ligand(FasL)]mRNAの発現を観察したところ,Fasは発現しているにも関わらず,FasLの発現はほとんど検出できなかった。 以上の結果から,歯肉由来リンパ球は細胞内アポトーシス抑制分子の発現が抑制され,アポトーシスに感受性になっているにも関わらず,細胞膜アポトーシス誘導分子のうちFasLが欠如しているために,アポトーシスに陥ることなく,炎症歯肉組織中に局在して炎症の慢性化に関与することが示唆された。 そこで実際に歯肉由来リンパ球は,アポトーシスに感受性であるか検証するために,in vitroの系でFasLと同様のアポトーシス誘導能を有する抗Fas抗体を歯肉由来リンパ球に作用させてアポトーシスが誘導されるか検討したところ,速やかにアポトーシスが誘導されることが明らかとなった。 本研究で得られた結果から,炎症歯肉組織に局在するリンパ球は,アポトーシス感受性であるにも関わらず,FasLを欠如しているためにアポトーシスに陥っていないことが明らかとなった。このことは歯周炎病巣に局在するリンパ球が,慢性歯周炎の成立の分子機構に関与することを示唆するものである。
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