研究概要 |
一般的に細菌には,自己周囲の細胞密度を把握するシステムがある。これをquorum sensingという。このシステムについて明らかになっている点として,グラム陰性細菌においてN-acyl homoserine lactone(AHL)が非常に重要な役割を担っているといわれている。これらのことより,グラム陰性細菌が多数を占める歯周疾患に関連性のある細菌についてもこのquorum sensingが関与している可能性が高い。 前年度の報告において,quorum sensingのシステムの存在を認めた。しかし,関連物質については不明であった。Frias et al(Infect.Immun.,2001)は,歯周病原性細菌のquorum sensingには前述のAHLが関連している可能性は低く,Autoinducer-2(AI-2)が関連していると推察した。しかし,彼等はこれらの物質の歯周病原性細菌に対する影響はみていない。そこで,AI-2を培養上清中に産生するVibrio harveyi ATCC700104株の上清(Sup)もしくは部分精製したAHLを歯周病原性細菌であるPorphyromonas gingivalis FDC381株の培養系に添加し,その成長曲線におよぼす影響,またその主要なタンパク分解酵素であるArg-gingipain(RGP)およびLys-gingipain(KGP)に対する影響,さらにluxSの遺伝子発現に対する影響をRT-PCR法を用いて検討した。成長曲線において,Sup添加群では,AHL添加群,無添加群と比較して,培養開始より9時間以内では有意に成長が早かった。それ以降には有意差を認めなかった。つまり,Supを添加することにより増殖期への移行が早まったと推察できる。RGPとKGPの産生については,Sup添加群とAHL添加群,無添加群の間に有意差を認めなかった。また,luxSの発現は全ての群に認められたがその量には差が認められなかった。 結論として,主な歯周病原性細菌でのquorum sensingシステムの存在が明らかとなった。また,そのシステムに関与する物質は,N-acyl homoserine lactoneではなく,Autoinducer-2であると示唆された。
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