研究概要 |
細胞が紫外線照射を受けると、DNA中で隣接するチミジン(d(TpT))の間で光[2+2]環化付加反応が進行し、cis-syn-シクロブタン型チミンダイマー(T[c, s]T)などを生成する。このような変異はDNAの複製エラーをおこし、突然変異や細胞死を誘発する。 太陽光(300-500nm)を用いてT[c, s]Tのシクロブタン環を開裂させ、本来のd(TpT)に修復する酵素がDNAフォトリアーゼ(DPL)であり、その活性中心には光エネルギーの化学エネルギーへの変換に重要なフラビン補酵素(FAD)が存在する。一方、大環状ポリアミンの亜鉛(II)錯体は中性pH水溶液中でdT, T[c, s]T, FADのイミド構造を,認識して安定な複合体を生成する。昨年度は、「二核亜鉛錯体(Zn_2L),T[c, s]T, FAD(またはFADH_2)の3分子が自己集積して生成する超分子複合体内でのエネルギー移動による、T[c, s]Tの触媒的光開裂反応を試みたが、Zn_2LとFADH_2の存在下でのT[c, s]T開裂の反応加速は、Zn_2Lのみによる反応加速とほぼ同程度であった。 そこで本年度は、光増感ユーットとしてピリジル基、およびフラビン基を導入した亜鉛錯体の合成を試みた。ピリジニウム基をもつ亜鉛錯体にはシクロブタン環解裂活性は認められなかった。またフラビン基をもつ亜鉛錯体については、現在精製を試みている。 一方、二核亜鉛錯体(Zn_2L)および三核亜鉛錯体(Zn_3L)が6員環トリイミド化合物であるシアヌル酸およびトリチオシアヌル酸のアニオンと水溶液中で自己集積し、立方八面体型超分子をつくることを報告した。
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