研究概要 |
著者らは、含窒素複素環に置換基を導入する方法を開発し、更にその方法を不斉反応へと発展させている。それらは、in situで生成する複素環N-アシル四級塩を求核剤で捕捉する方法であり、一般性、実用性の高いことを既に報告している。また、安価で入手容易なアミノ酸をキラル源とする不斉誘起にも成功し(最高98%de)、得られた1位置換イソキノリン類から(-)-homolaudanosine,(S)-2,3,9,10,11-pentamethoxy-homoprotoberberine等のイソキノリンアルカロイドの合成に成功した。昨年度は、キラルな複素環N-アシル四級塩を経由する求核付加反応に際しての不斉発現機構を分子軌道法計算により考察した。これまでに得られている実験結果と計算結果に良い一致が認められたことから、今年度は最も高い選択性の期待できる、アミノ酸から誘導されるキラルなN-アシル化剤を合成しイソキノリン環1位に対する不斉求核付加反応を検討した。その結果、アルカロイド類合成のための基質のみならず、無置換のイソキノリン環に対しても高いジアステレオ選択性で1位に置換基を導入することに成功した。1位のみに置換基を有するテトラヒドロイソキノリン類は、近年、パーキンソン病の発症と抑制に関係する化合物として注目を浴びている。著者らは、不斉求核付加反応により得た1位置換体から光学活性1位置換テトラヒドロイソキノリンへの変換にも成功した。これらの化合物の一般的合成法はこれまで報告されておらず、有用性の高い合成法を提示できたと考えている。
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