研究概要 |
制癌剤への応用が期待されるras-ファルネシル化酵素阻害物質として見い出された(-)-CP-263,114は,生理活性と構造の両面から強い関心が寄せられている天然物であり,国内外の全合成研究における興味の対象となっている.我々は,本天然物の全合成を通して有用な医薬品を創製し,有機合成化学的側面から制癌研究を推進すると共に,合成化学め発展をもたらす新手法と戦略の開発を目指して研究を進めてきた. 前年度の研究で,我々は,独自のラジカル反応を基盤とする(-)-CP-263,114の複雑かつ特異な骨格の構築に成功した.本13年度,この基本戦略にのっとって全合成経路の開拓を更に押し進めた結果,17位側鎖の導入をはじめとする種々の変換を経て,標的天然物の全合成に極めて重要な中間体を合成することに成功した.また,全合成の完成に必要な官能基・置換基を備えた本中間体から天然物に至る今後の合成計画では,無水マレイン酸構造の構築と7位に位置するC1-C6アルケニル側鎖の導入が残る課題となる.本年度の研究によってこれらの解決に対する幾つかの予備的知見を得ることにも成功した. 以上,制癌剤のリード化合物として注目されている(-)-CP-263,114の全合成に極めて重要な中間体の合成を達成した.本年度に展開した研究によって得られた成果は,ラジカル反応を機軸とする(-)-CP-263,114の全合成の完成に向けた今後の研究の有力な基盤となる.
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