ラジカル反応を固相合成や水中反応に応用した研究例は少なく、固相ラジカル反応の開発とその立体制御、並びに環境調和適応型反応としての水中固相ラジカル反応への展開を目指した研究を展開してきた。これまでに、ワンレジンに結合したオキシムエーテルへの立体選択的なラジカル付加反応を検討し、α-アミノ酸類の新規固相不斉合成法を開発した。本反応は、固相ラジカル反応の立体を制御した最初の研究であり、ラジカル開始剤としてトリエチルボランを用いた場合に固相ラジカル反応は低温でも進行し、立体制御も可能であることを示している。 次に、ラジカル受容体としてオキシムエーテル、オキシム、ヒドラゾン、ニトロンを選び、水中ラジカル反応を詳細に検討した。その結果、基質により反応性が異なるものの、水に対して不安定なイミン類へのラジカル付加反応が水溶媒中でも進行することを見出した。特に、本反応は水溶媒中で炭素-炭素結合を形成している点で意義深い。さらに、本反応を鍵反応としたα-アミノ酸の水中ワンポット合成法の開発にも成功し、オキシムエーテル類への水中ラジカル付加反応が非常に優れた反応であることを実証した。また、より高い反応性を示すラジカル受容体を検索していく中で、金属亜鉛を用いたスルホニルイミン類への水中ラジカル付加反応が速やかに進行することを見出し、スルホニルイミン類がラジカル受容体として特に有用であることを示した。さらに、オキシムエーテル類の水中タンデム型付加-閉環反応を検討したところ、反応は立体選択的に進行し、β-アミノ酸類の新規不斉合成法を開発することにも成功した。
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