研究概要 |
本研究の目的は、核酸塩基類似物質の相補的水素結合認識を電気化学的制御可能なモデル系構築と、その性質の理解である。本年度はこの目的達成のために、1)核酸塩基対類似の水素結合対を形成するモデル系の電気化学的挙動の観測、2)隣接する水素結合系の認識能とその性質の評価をおこなった。1)のモデル系には6-アザウラシル(AZU)と2,6-ジアミノピリジン(DAP)の作る水素結合錯体を、2)のモデル系にはo-キノン類(OQ;フェナンスレンキノン、o-ナフトキノン)とジメチル尿素(DMU)との水素結合錯体を選択した。また、その対照にはOQとメタノール(MeOH)との水素結合錯体を用いた。 1)AZUとDAPはCH_3CN中で1:1の相補的水素結合錯体(AZU-DAP)を生成する。AZUは-1.5V(vs.SCE)で非可逆的に還元されるが、AZU-DAPの形成により還元電位は負にシフトし、相補的水素結合が解消されることが分かった。 2)OQ、そのアニオンラジカル(OQ^-)およびダイアニオン(OQ^<2->)がDMUと作る水素結合錯体の生成定数を分光学的および電気化学的手法により明らかにした。また、これら錯体の生成定数の温度依存性から錯体の水素結合エネルギー(ΔH°)及び結合エンタルピー(ΔS°)を算出した。OQおよびOQ^-はCH_3CN中でDMUと1:1の水素結合錯体を生成した。この時OQ^--DMU系ではΔH°、ΔS°共に小さいため、比較的大きな生成定数(10^2)を与えた。この現象はOQとDMUとの相補的な構造に起因し、ΔS°支援型の認識系では電気化学的制御により弱い結合エネルギーで水素結合系構築が可能であることが示された。また、OQ^<2->では、DMUが低濃度の時には1:1、高濃度では1:2の水素結合錯体を生成し、1:1から1:2錯体への水素結合形成過程においてはΔS°に支配されることが明らかとなった。
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