研究概要 |
申請者は、蛋白質抗原の構造を安定化すると抗原提示細胞内のプロセシング酵素に対する抵抗性が増加し、その結果T細胞を刺激するために必要な抗原ペプチドの産生量が減少することをニワトリリゾチーム(HEL)を用いて明らかにした(So, T. et al., J. Biol. Chem., 1997)。 蛋白質抗原が、ヘルパータイプ2T細胞(Th2)を誘導する能力が高く、結果としてIgEが誘導される場合、そのタンパク質はアレルゲンとして働く。申請者は本年度、抗原ペプチドの生成効率が高い不安定なHELが相対的にTh2細胞を誘導しやすく、また変性構造上のエピトープにIgEが誘導されることを報告した(So, T. et al., Immunology, 2001)。以上から、タンパク質の構造安定性がアレルゲン性を規定する因子になる可能性が示唆され、この一般性を検証する目的で、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)及びウシ膵臓リポヌクレアーゼA(RNase A)の構造安定性の異なる誘導体を調製し、蛋白質抗原の構造安定性と抗原ペプチド生成量との関係、さらにIgE誘導能との関係について検討した。 3種の蛋白質抗原のすべてにおいて、構造の不安定化はカテプシンDやEなどの抗原プロセシング酵素に対する感受性を高め、その結果抗原ペプチドの生成量の増加に結びついた。次に、構造安定性とIgE誘導能との相関を調べたところ、OVA及びRNaseにおいても構造の不安定化がIgE誘導能を増大させる傾向が認められた。以上の結果は、構造安定性の減少によって蛋白質の潜在的なアレルゲン性が増強することを示唆し、蛋白質製剤の設計においてはこのことに留意する必要があると考える。
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