研究概要 |
対象は採血と遺伝子解析の同意が得られた健対照者(50歳以上)200例,高血圧患者100例,糖尿病患者100例および脳血管障害患者100例について検討を行なった(鳥取大学倫理委員会承認). 1)精神症状の評価と診断 動脈硬化性疾患の臨床診断に加えて,精神症状をself-rating questionnaire for depression(SRQ-D,筒井ら,1981年)を用い点数化して評価した. 2)遺伝子解析と神経生化学的検討 5-HTTのイントロン2に存在する遺伝子多型(HTTVNTR)および5-HTT gene-linked polymorphic region遺伝子の多型と精神症状に加えて,ドパミン受容体(DRD4)遺伝子の作用についても検討を行った.DRD4遺伝子のエクソン3に存在する多型性についてPCR法にて解析し,SRQ-Dによる精神症状の評価との関連を検討した.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法にて血中ドパミン代謝産物(ホモバニリン酸)量の測定を行い,DRD4遺伝子の多型性との関連について解析した.HTTVNTRならびに5-HTTLPR遺伝子の場合と同様に各疾患の重症度との関連,ADLへの影響についても解析した. 5-HTTLPR遺伝子多型とセロトニン代謝産物の5-hydroxyindole acetic acid(5HIAA)においてS/S遺伝子型を有する例でL/L, L/S遺伝子型を有する例よりも血漿中5-HIAA濃度が高値であり,セロトニン代謝との関連が示唆された.他の遺伝子多型とセロトニン代謝には有意な関連は認められなかった. 3)生活習慣病および疼痛性疾患と5-HTTLPR遺伝子多型 高血圧患者,脳血管障害患者では5-HTTLPR遺伝子のS/S遺伝子型でうつ状態を呈する可能性が高いことが明らかとなった.また,慢性疼痛性疾患の片頭痛患者においても5-HTTLPR遺伝子のS/S遺伝子型でうつ状態を呈することが明らかとなった.これらのことから,5-HTTLPR遺伝子のS/S遺伝子型を有する例ではうつ状態の治療を必要とする症例が存在する可能性が強く示唆された.
|