研究概要 |
在宅あるいは施設に入所している高齢者の配偶者死別による悲嘆過程と悲嘆回復に関わる要因の相互関係を明らかにすることを目的として,65歳以上で配偶者死別を体験した痴呆症状が認められない者で,研究に対する同意が得られた12名(男性3名・女性9名)への面接調査を2000年12月20日〜2001年5月5日に行った.調査の場所は,香川県内のK施設であった.なお当研究では,Worden (1993)の悲哀の課題の概念とBowlby (1981)の愛着理論を基盤とした.本研究によって,以下の内容が明らかとなった. 1.高齢者の悲嘆過程の各段階は規則的なものではなく,互いに混在しながら長期にわたって進むものであった. 2.悲嘆回復に影響を与える要因として,「死別時の状況」「介護に対する満足感」「生前の夫婦関係」「役割」「情緒的サポート」「死別後の経過時間」「死別への対処行動」「身体的・精神的健康状態」「経済状態」「文化・宗教」の10因子が挙げられた. 3.悲嘆回復に関わる10因子は,悲嘆過程に沿って3つの要因に分けられた.「死別時の状況」「介護に対する満足感」「生前の夫婦関係」の3因子は,【死別の認知的・情緒的受容に影響を与える要因】であった.「役割」「情緒的サポート」「死別後の経過時間」「死別への対処行動」の4因子は,【死別後の変化への適応に影響を与える要因】であった.「身体的・精神的健康状態」「経済状態」「文化・宗教」の3因子は,【死別の受容と変化への適応の双方に影響を与える要因】であった. 4.配偶者死別による悲嘆からの回復は,悲嘆回復を強化する因子がどの程度満たされているのかが重要であって,施設入所か在宅かといった面接時の居住形態の違い基づくものではなかった. 当研究において,配偶者と死別をした高齢者の悲嘆回復を強化するためには,死別前から死別後に至るまでの長期的な悲嘆過程の理解が必要であることが示された.
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