従来行われてきた研究では、痴呆性高齢者の問題行動が取り上げられることが多かったが、個々の痴呆性高齢者を生活レベルで捉えると、実際には他者に対して配慮したり自分自身の役割をしたりする言動を示しながら懸命に生活しようとしていることが伺える。そこで平成12年度の本研究は、痴呆性高齢者の言動にどのような意味があるのかを全人的な視点に立って明らかにすることを目的として行った。 研究方法としては、まず老人病院あるいはグループホームで生活している痴呆性高齢者、合計8名を対象として生活の場面を参加観察し、観察記録を作成した。次にその観察記録をデータとし、質的分析手順にのっとってそこから痴呆性高齢者の言動を抽出、その意味をコード化、カテゴリー化していった。そして、それぞれのカテゴリーの特徴を明らかにし、カテゴリー間の関連についても検討した。その後、この質的分析の真実性を高めるために、老年看護学を専門としている研究者に分析結果の検討を依頼し、その検討を踏まえて分析を一部修正した。 研究結果として、痴呆性高齢者の言動は「自己の過去にひたる」「居場所にいる」「自分から働きかける」「他者を思いやる」「リラックスする」「困難に対処する」というカテゴリーに分類されること、これらは記憶障害、見当識障害、認知障害がおこる痴呆性高齢者が人間として老年期に自己を統合していくためには重要な要素であること、また問題行動にも彼らなりの意味があり、観察を通してその意味を具体的に解釈・理解できることが明らかになった。
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