本研究は、効率性などを目的関数とした最適化コンピュータ・シミュレーションにより投球中の上肢動作を生成し、それをもとに、身体特性(身長、体重、筋力、柔軟性など)の個人差をも考慮した、運動スキルの新しい定量的評価法を開発することを目的として実施された。 スキル評価は、3つのセクション(投球動作や身体特性値の測定、最適化計算の実行、実測動作と最適動作との比較)から構成されている.最適化は、勾配法の一種であるBFGS公式による準ニュートン法を用いて実施し、「効率よく投球速度を上げる」ことに関する部分と、その結果に対して、「効率よくボールコントロールする」ための部分があり、この2つの最適化計算をもって1つの最適動作を生成した.実測動作と最適動作との比較は、肩関節3自由度及び肘関節1自由度の計4自由度について、両動作の最大振幅の差を求めること及び相互相関を求めること、すなわち動作パターンの類似性を求めること、によって行われた.また、最適化シミュレーションの妥当性については、以下の方法によって検証された.まず、優れた投手(平均球速38. 8m/s(140km/h)のプロ及び大学野球選手14名)の共通動作パターンを相互相関法によって抽出し、そのパターンにシミュレーション結果が近づくかどうかによって、最適化結果の妥当性を検討した. 6名の最適化の結果、4名は共通動作パターンに近づき、残り2名は同程度であることがわかった.後者の2名は優秀投手に含まれる選手である.これらの結果から、本最適化シミュレーションは妥当であることが示唆された.また、投球速度の高い大学野球選手や少年野球選手について、この最適化シミュレーションを適用することによって、必ずしも投球速度が高いことが優れたスキルを有しているとは限らないことが明らかにされた.
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