研究概要 |
加齢に伴う動脈における特徴的な可逆的変化のひとつに,中膜平滑筋細胞の内皮への遊走があるが,その減少の運動による影響は未明である.またそのような病変の起きた動脈硬化巣においては弾性線維における石灰化とアミノ酸組成の変性が認められている.その結果,動脈の伸展性と強度が減じる.われわれの過去の研究から,継続的な運動を行ったラットはそうでないラットに比して動脈の伸展性と強度が高く,弾性線維の変性の程度が低いことが明らかになった. そこで本研究は,弾牲線維の石灰化とアミノ酸組成の変化が動脈の新生時と完成後の進行の程度に差があるのか否か、また平滑筋細胞の遊走が内弾性板のバリアーとしての機能低下によるものなのかあるいは平滑筋細胞の遊走能の向上によるものなのかを明らかにするための一助となる知見を得ることを目的に行った. 雄ウィスターキョウトラットを9週齢から2ヶ月間飼育し,その間自発走運動ができる環境で飼育した運動ラットの大動脈をそうでないものと比較した.運動ラットの体重と心重量は非運動ラットよりも有意に低値であったことから,器質的な要素への運動の効果は得られたものの,弾性線維のエラスチンにおけるカルシウム量とアミノ醗組成に差は得られなかった.また大動脈の引張試験を行った結果,破断点における伸び比と応力にも差は得られなかった.これらのことから,継続的運動の効果は動脈新生の前半ではあまり得られない可能性が考えられた.いっぽう,動脈中膜平滑筋細胞の遊走能に関する検討は,本研究では十分な示唆的結果が得られなかった.
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