研究概要 |
昨年度に引き続き,宮崎県北部の延岡市に位置する二つの小規模溺れ谷低地(沖田川低地・稲葉崎低地)を研究対象地域に選択し,合計8地点においてハンドボーリング調査を実施して,完新世堆積物の観察と採取を行った.8地点のうち3地点では,採取部口径6cmのハンドオーガーを使用し,標高-2.5m以浅の海成沖積層(上部浅海帯,潮間帯堆積物)に含まれる貝類化石を採取した.各ボーリング地点の地盤高度は,オートレベルを使用して水準点から測量した. 同定された貝類化石は,巻貝類26種,角貝類1種,二枚貝類21種の合計48種で,そのすべてが内湾性種で占められていた.とくに沖田川低地の海成沖積層から得られた内湾性貝類は,内湾泥底群集(イヨスダレ,ウラカガミなど),干潟群集(イボウミニナ,カモノアシガキなど),内湾砂底群集(ハマグリ,シオヤガイなど)が混合したものであり,完新世海水準変動に伴う環境変遷(縄文海進)を経験した小規模溺れ谷低地の典型的な貝類群集の特徴を示した. さらに,沖田川低地の海成沖積層に含まれていた6点の貝類化石(干潟群集・内湾砂泥底群集構成種)について,加速器質量分析(AMS)法による放射性炭素年代測定を実施した結果,暦年較正した年代で約7200cal. yr BPから約2400cal. yr BPを示した.これらの^<14>C年代値に基づき,延岡市土々呂における現在の平均大潮差2.0mを考慮して旧海水準を検討した結果,中期完新世(約7000cal. yr BP)の相対的海水準が現海面か若干低い位置(O〜-1mTP付近)にあったこと,その後も約4000cal. yr BP頃まで海水準は長期的にみて上昇傾向であったことが推定された.本研究で明らかとされた延岡付近の中期完新世の海水準高度は,宮崎市青島における同時期の相対的海水準が最高で約8mに達するのと対照的であり,日向灘沿岸地域の完新世テクトニクスは北への傾動(南高北低)傾向にあることが指摘できる.
|