研究概要 |
昨年度の研究結果を従来の研究成果と合わせて,第四紀後期の南極沿岸の環境変動の現時点でのまとめを,英国で開催された「将来の海底堆積物掘削計画に関するワークショップ」およびフランスで開催された「第11回ヨーロッパ地球科学連合会議」で発表した。以下,議論となった点を列挙する。 1.氷床変動史と海水準変動史の復元におけるルッカリー遺物の意義:ルッカリーの存在は,その場所が当時の海水準よりも高い位置にあったことを示すことから,5300年前の海水準は15m以下,2700年前には5.9m以下であった。海成層の礫のトップの高さの年代を約6000年前と仮定して,これらの点と現在の海面の高さを結ぶと,貝化石の年代と地形の関係から得られたリュツォ・ホルム湾,きざはし浜の高精度の海水準変化と形態はよく似ており,氷床荷重の除去に対するアイソスタティックな陸地の反応が,リュツォ・ホルム湾周辺でもリーセル・ラルセン山地域でもほぼ同様で,氷床変動の傾向の類似が示唆される。 2.ペンギンの生態から見た完新世の環境変動:ルッカリーの形成時代は,5300年〜2000年に集中する。これは,現在よりも水空きの多い海氷環境が生じ,餌となるオキアミの採取が容易になるとともに,海面へ直接太陽光が照射しプランクトンが増大することでオキアミ自体が増加し,結果としてペンギン個体数の増加が生じたと考えられる。これは,気候の点から見れば,寒冷化よりは温暖化によって生ずる現象である。 3.南極における完新世中期の温暖期の存在:これまで南極の様々な地域から完新世中期の温暖期の存在が報告されている。ロス海のテラノバ湾の放棄されたペンギンルッカリーの存在(5000年〜4000年前の時期:"Penguin optimum"),ドームCの氷床コアで見られる温暖期(約3000年〜4000年前)。きざはし浜から得られた約5300年〜4000年にかけての相対的に急激な海退の事実は,この時期またはその直前に大きな荷重の除去,すなわち氷床の後退が生じていたことを示唆する。
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