研究概要 |
本研究は出土金属製遺物の保存のために,その腐食に影響を及ぼす埋蔵環境因子の解明を材料科学および土質工学の立場からアプローチすることを試みた.埋蔵環境因子が金属製遺物に与える影響を調べ,腐食との相互関係を見出すことを目的とした.それにより遺跡から出土する金属製遺物の腐食・劣化を的確に抑制・防止できるものと考えている.調査・評価方法は(1)鉄製遺物…表面の付着土壌と腐食生成物における溶解塩類化合物の同定、(2)遺物包含層土壌および遺構土壌…通気性(有孔度),水分含有量,含有塩濃度pH,溶存酸素濃度、(3)地下水…溶存酸素量,pH,含有塩濃度 これらのことから次のことがわかった。 (1)今回調査した遺跡(宮城県多賀城市市川橋遺跡)における土壌の物理性(孔隙率、含水比、pH、溶存酸素、陰イオン)は鉄製遺物の腐食度に大きな影響を与えるものではなく、むしろ腐食を抑制する環境を示していたことがわかった。(2)鉄製遺物には土壌中の陰イオンが濃縮して存在することがわかった。特に硫酸イオンが多量に集積していることが判明した。(3)埋蔵環境は還元雰囲気であったことが示唆された。更に、発掘時に酸化作用により急激に腐食反応が進む危険性が指摘できた。 これを受けて、埋蔵環境の調査をすることは出土後の金属製文化財の劣化、腐食の進行速度および挙動に重要な情報を与えるものとして捉えることができた。例えば、硫酸イオンの存在量が多い場合、陰イオン交換機能として硫酸イオンを効果的に交換できる素材を用いることが可能で、また、pH値についても同様に脱塩材料を適切に用いることが期待できる。
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