研究概要 |
本研究では,近年のアメリカにおいて研究・開発が進められてきた,歴史教育を通じて法的判断力あるいは法的思考力を育成しようとする理論,及び,プロジェクトの分析・検討を行った。分析の結果,プロジェクトにおいてめざされているのは,社会制度の妥当性や正当性に関する法的判断の吟味を通じた「価値研究」であり,歴史の教育による開かれた価値観形成であることが明らかになった。分析対象とした,理論やプロジェクトは,それらが基盤とする教科論と不可分の関係にあり,大きくは,歴史の教授を目的とする「歴史目的型」と歴史を手段として現代社会の理解を促す「歴史手段型」と,に分けられる。前者では,例えば,特定の歴史社会の文化的特性や社会規範を明らかにする手段として,各時代に特徴的な訴訟例を取り上げるものがある。後者では,例えば,合衆国憲法に内包される価値原則が,歴史的にどのように具体化されてきているのかを明らかにするために,価値原則ごとに制度や制度を運用する行為の妥当性をめぐって争われた訴訟例を時系列に沿ってとりあげ,それぞれの訴訟での司法の判断を批判的に吟味するものがある。目的型は,現代社会の社会規範を相対化することを通じて,手段型は,現代社会における社会規範の具体化をあとづけることを通じて,開かれた価値観形成をはかるものであった。 論文として著した研究成果は,11に示す通りであるが,その他,学会発表に関しては,幸い,昨年度と今年度,社会系教科教育学会と全国社会科教育学会のシンポジウムにおいて,開かれた価値観形成をはかる社会科教育の単元や授業の具体的あり方について提案・報告する時宜を得た。二つの研究大会では,アメリカの法関連教育教材の法カリキュラムや単元の分析をふまえながら,わが国の社会科教育への提言を行うために具体的な教授書の開発を新たに行ったうえで,報告を行った。以下は,その際の発表題目である。 1)社会系教科教育学会第12回研究大会シンポジウム(平成13年2月10日) 発表題目「開かれた価値観形成をはかる社会科教育:社会の自己組織化に向けて」 2)全国社会科教育学会第50回研究大会シンポジウム(平成13年10月10日) 発表題目「開かれた価値観形成をめざす社会科:意思決定主義社会科の継承と革新
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