研究概要 |
水産資源の漁獲死亡率および自然死亡率の推定問題において,標識放流から得られる再捕データを観測値とした場合の統計モデルおよび推定方法について考察した. 一般に,水産資源は空間的に集中分布することが知られている.また通常,漁獲を行う際の操業条件や魚の生残に関する環境条件も一定とは考えられない.ここでは,この様な不均一性および変動をランダムネスとして捉え,超過変動を考慮した統計モデルの構築を行った.この際,漁獲死亡および自然死亡の両尾数の経時的な減少過程を考慮した条件付モデルを利用した.ただし,観測値は実際には漁獲死亡尾数に限られる.そこで本研究では,自然死亡尾数を欠測値とする枠組で研究を行った. この枠組を利用することで,漁獲死亡尾数に対してDirichlet-多項分布を仮定した従来のモデルでは,漁期が進むにつれ漁獲死亡尾数に対する超過変動の大きさが減少する構造が明らかとなった.したがって,そのような強い制約のない条件付モデルは,より柔軟なモデリングを可能にした. またこの考察と並行して,分布型のずれに関する擬似尤度法の頑健性について,いくつかの分散関数を仮定し,モンテカルロシミュレーションにより考察した.この結果,真の分布を仮定した場合の最尤法に比べ,擬似尤度法では推定効率は当然落ちるが,その減少程度はそれほど大きくはないと判断された. 欠測値となる自然死亡尾数の処理に関して,今回は観測値となる漁獲尾数の2次までのモーメントを利用することで対応したが,計算の負担をより軽減するアルゴリズムの開発が今後の課題として残った.
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