研究概要 |
本研究では,我々が提案する補聴器フィッティング(IECフィッティング)の実用化を最終目標とし,(1)対話型進化計算(IEC)のインターフェイス改善,(2)補聴器実機へのIECフィッティングの応用と評価,(3)IECフィッティングに基づく聴覚研究の新たなアプローチ提案,の3つを行った。前年度は主に,(1)の成果公表,(2)の実用化システムの開発を行った。本年度は,(2)の実用化システムの評価,(3)の聴こえの知見獲得を行った。 実用化システムの評価では,実際の補聴器ユーザ5名に対して,IECフィッティングを用いた補聴器のフィッティング,フィッティングした補聴器の短期使用後(1週間)の評価,長期使用後(6ヵ月)の評価を行った。その結果,IECフィッティングの操作時間は15分程度であり,ユーザにとっての操作性も高かったため,十分実用的であることが分かった。さらに,短期使用,長期使用ともに,IECフィッティングは専門家が繰り返し行ったフィッティングと同等の高い性能を示した。この成果は,本年度の国内・国際会議において報告した。 聴こえの知見獲得では,環境に適応する補聴器特性の動的決定を将来の目標として,IECフィッティングで得られる補聴器特性による環境音分類を行った。従来の研究では,音の物理特徴量とそれに基づく分類をあらかじめ仮定し,分類と補聴器特性の対応を調べていた。一方,我々は分類を仮定せず,ユーザの聴こえを直接反映した補聴器特性で分類し,その後,分類に対応する音の物理特徴量を抽出するアプローチをとった。本年度は,35種類の環境音,3名の被験者について実験を行い,2次元写像法とクラスタリング手法によって環境音を分類した。その結果,従来は複数被験者の平均的な傾向が議論されてきたが,分類には個人差が大きいことが示された。この成果は,本年度の国内会議において報告した。 以上をまとめると,前年度から今年度を通して,IECフィッティングの補聴器実機への応用と有効性の確認が終了した。さらに,本年度,聴こえの知見獲得を試みることによって,IECフィッティングをベースとした聴こえの解明への新しいアプローチを提案した。このアプローチのさらなる実現については,今後,新テーマとして取り組んで行く。
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