本年度は、傷病者搬送システムの評価モデルを構築し、傷病者発生から搬送までの一連のプロセスを定式化して評価を行い、次のような知見を得た。 ・傷病者搬送活動に関わるリスクは、「留置リスク」「長時間搬送リスク」「医療混乱リスク」に分類され、これらのリスクは相互に関係していることを明らかにした。 ・「医療混乱リスク」は、医療機関における傷病者の受入速度として定義することにより、過去の事例との相対的評価が可能となることを指摘した。 ・ケーススタディとして、航空機事故(ガルーダ・インドネシア航空機火災)および列車事故(信楽高原鉄道事故)をとりあげた。搬送時間を政策変数とした場合、全体のリスク低減は難しいがリスクの性質を変えることは可能であることを指摘した。 ・阪神・淡路大震災において、医療機関混乱の原因となった傷病者の医療機関への集中について、予測モデルを構築し、医療機関のロケーションが重要であることを指摘した。 ・名古屋市およびその周辺の災害拠点病院について、周辺地域の現状を調査し、それぞれの医療機関の立地状況に即した対策立案が必要と考えられることを指摘した。 これら一連の研究は、災害医学分野と土木工学・交通工学分野の研究者・担当者がリスクに関する認識を共有して対応を話し合うための理論として、有用であると考える。 課題としては、リスクを低減する災害情報システムの提案、具体的には、指令システムの改良、地理情報システムを用いたリスク評価システムなどが挙げられる。
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