研究概要 |
ダイズとその野生祖先種であるツルマメとは自然交雑し,生存力のある雑種をつくる。自然交雑の程度は環境条件によって様々に変動するが,虫媒植物であるダイズとツルマメでは,有効な送粉昆虫の存在がその交雑率に大きく影響する。花の性状と昆虫の行動とは強く結びついているので,自生地での観察でないと送粉生態に関する正しい知見は得られない。そこで,遺伝子組換え作物からの導入遺伝子の拡散による遺伝的汚染の影響を評価するための基礎知見を得る目的で,ダイズ畑に隣接するツルマメ自生集団における訪花昆虫を調査した。ツルマメの自生する京都府亀岡市のダイズ作地帯(水田転換畑)において,ダイズおよびツルマメの開花期にあたる2001年8月11日から9月22日まで1週間おきに計7回,訪花昆虫とその行動を調査した結果,コハナバチ科のフタモンカタコハナバチがダイズやツルマメを訪花し花粉を集める行動が観察され,本種が隣接するダイズとツルマメの間で送粉している可能性が示唆された。また,ダイズやツルマメは,他種の開花の少ない8月中旬から下旬にかけて多くの昆虫に花蜜や花粉を提供していたので,このような環境下での遺伝子組換えダイズの栽培は,ツルマメへの花粉流動を通しての導入遺伝子の逃げ出しや,昆虫相への影響などの問題を引き起こす可能性が高いことが指摘された。 また,野生のニンジンであるノラニンジンについて,雑草化の過程の解明や野生遺伝資源の保全の観点から,日本における系譜と遺伝的多様性をRAPD分析によって調査した結果,日本のノラニンジンは東洋系品種から派生したもので高い関係性をもっていると推定され,また栽培品種が逃げ出して雑草となる可能性も高く,栽培品種の変遷と新しい品種からの遺伝子流動によって,日本のノラニンジン集団が遺伝的に撹乱されている可能性の高いことが示唆された。 以上の成果は,日本雑草学会第41回大会で発表予定である。
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