研究概要 |
細胞内における蛋白質の生合成においてDnaJ, DnaK, GroELなどの分子シャペロンは協同的に作用して蛋白質の立体構造形成の補助、立体構造の修復を行う。これを模倣すれば凝集した蛋白質を立体構造を修復し、機能を再生することができる。この目的のため、脂質二重膜を表面にDnaJ, DnaK, GroELを固定化したデバイスを構築したが、タンパク質修復機能を充分得ることは出来なかった。これは分子シャペロンが協同的に作用しなかった為であり、より効率的な機構を構築するためにはシャペロン単独で機能するデバイスにする必要がある。そこで本研究ではDnaK単独での機能発現を目指す研究を行った。DnaKはN末端のATPase部位とC末端の基質結合部位からなり、前者の活性により後者が構造変化して基質を脱着する。DnaKのシャペロン活性発現にはATP加水分解で得たエネルギーを用いた基質結合部位の運動が不可欠とされてきた。しかし同様の機構で働く分子シャペロンGroELでは基質結合部位断片単独でも活性を有することが知られている。そこでDnaKからATPase部位を除いた基質結合部位断片DnaK384-638のルシフェラーゼとβGalactosidaseの構造形成に対する効果を調べたDnaK基質結合部位の遺伝子を大腸菌からクローニングし蛋白質発現用ベクターに組み込み大量発現してフラグメントを作成した。基質結合部位断片の存在下でルシフェラーゼとβGalactosidaseのリフォールディングの収率が改善した。また基質結合部位断片はこれらの蛋白質の凝集を抑制することを散乱測定によって確認するとともに、蛍光標識したDnaK384-638を用いて断片が構造形成中間体と相互作用することも確認した。DnaKのシャペロン活性発現には基質認識部位のclose型とopen型の間の連続的な構造転移が必要であるが、ATPase活性のない基質結合部位断片単独でも熱揺らぎによってこの転移が生じている。そのため断片単独でも、低速度の構造形成に対してはシャペロン活性を示すと考えられる。これにより今後DnaKの基質結合部位フラグメントを脂質二重膜を表面に導入することで本研究の目的のデバイスを構築できると考えられる。
|