研究概要 |
トレオニンアルドラーゼは、ピリドキサールリン酸を補酵素としてトレオニンをグリシンとアセトアルデヒドに分解する反応(アルドラーゼ反応)を触媒する酵素である。トレオニンの光学異性体およびメソ体それぞれに対して基質特異性をもつ複数の酵素が現在までに報告されているなかで、D-トレオニンを基質とするArthrobactersp. DK-38由来のD-トレオニンアルドラーゼ(DTA)は、2価の金属であるマンガンを反応に必須とする。このDTAの光学異性体認識と2価金属による活性制御の機構は非常に興味深く、そこでX線結晶構造解析をおこなうことでこれらの機構を明らかにしようと試みた。 大腸菌で大量発現させ精製したDTAを用いて結晶化を試み、空間群P2_12_12_1格子定数a=88.3Å,b=129.6Å,c=62.3Å,α=β=γ=90°の結晶を得た。まずは分子置換法による位相決定を試みるため、DTAに相同性のある酵素を検索した。L-トレオニンを基質とするトレオニンアルドラーゼ(LTA)の立体構造が昨年報告されたが、LTAとDTAの一次構造には同じ反応を触媒する酵素ながら全く一次構造の相同性が見られないため、モデル構造としては使用できなかった。検索の結果、Alanine Racemaseが弱いながらも部分的にDTAに対する相同性が見られた。Alanine Racemaseはα/βバレル構造を持つピリドキサールリン酸を補酵素としてD-アミノ酸を基質とする酵素で、この分子をモデル構造に用いて分子置換法をおこなったが、解は得られなかった。 そこで続いて重原子誘導体の作成を試みた。この結晶はソーキング時に格子定数が容易に変化するため、非常に多くの条件で測定を行い、その中から格子定数が一致する組み合せのみを使用することにした。今までにThiomerosal(Hg)誘導体を得ることができ、さらにKAu(CN)_2誘導体が有望であることを見いだした。今後KAu(CN)_2誘導体のデータ測定を行い、位相決定をおこないつつある。
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