最も原始的な真核生物の1種である赤痢アメーバ(Entamoeba histlytica)は、4核期と単核期を交互に移行するなど他の真核生物とは全く異なる細胞分裂を行う。本研究では赤痢アメーバの細胞周期を制御する機構の解明を行った。 研究計画に従い、まず細胞周期を制御するキナーゼのクローニングを行った。赤痢アメーバ由来のmRNAからcDNAライブラリーを構築し、このライブラリーから細胞周期制御に関連すると思われる全長を含んだ新規キナーゼを10クローン得ることに成功した。これらのキナーゼについてアミノ酸配列を基準としたホモロジー検索を行ったところ、それぞれ他の真核生物のChk2(細胞周期進行の阻害因子)、Nek2、Rac1、Myosin light chain kinaseなどと高いホモロジーを示した。 今回得た10種の新規キナーゼの細胞周期制御における機能を知るため、各々のキナーゼの活性を研究計画に従い、アフリカツメガエルの未成熟卵をモデル系として用いて測定した。新規キナーゼ10種のmRNAを合成し、未成熟卵に注入した後、細胞周期の進行を開始して各キナーゼの活性を観察した。その結果、Rac1、Myosin light chain kinaseなどのホモログに有意に細胞周期の進行を阻害する活性があることを見いだした。この結果は新規キナーゼが真核細胞で細胞周期を制御できることを示しており、赤痢アメーバにおいても同様の機能を果たしていることを強く示唆する。 以上、研究計画に従い、赤痢アメーバにおける新規細胞周期制御関連キナーゼを10種クローニングした。さらにそれらのキナーゼの生体内での細胞周期における活性も確認した。これらの結果は特異な細胞分裂を行う赤痢アメーバの細胞周期制御機構の解明につながると共に、他の真核生物における制御機構の進化的な位置付けにも貢献すると考え、現在投稿準備中である。
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