研究概要 |
ドリコール(C65-100以上)は小胞体における糖鎖修飾の際に脂質キャリアとして用いられるポリプレノール類であるが,その生合成系の酵素の多くは未同定であった.代表者らは,一群の小胞体タンパク質の正しい局在化に異常を示す出芽酵母変異株の原因遺伝子の一つRER2が,ドリコール合成系の鍵酵素,cis-prenyltransferaseをコードすることを見出していた.さらに,rer2変異株の多コピーサプレッサーとして同定したSRT1遺伝子は,RER2と相同なタンパク質をコードし,遺伝子産物は酵素活性を有していた.一方,それぞれの酵素で産物の鎖長が異なること,発現のピークがRER2では対数増殖期,SRT1では定常期であること,細胞内局在がRer2pは小胞体であるのに対しSrt1pがlipid particle(油滴)であることなどから,2つの酵素に何らかの機能分担がある可能性が考えられた.また,原核生物の細胞壁合成においてもポリプレノールが脂質キャリアとして機能するが,真核生物の場合よりもより短いウンデカプレニルリン酸(C55)が使われる.大腸菌のcis-prenyltransferaseをコードするrthが酵母内で機能できるかを調べたところ,酵母内で活性のあるrthタンパク質として発現し,ウンデカプレノール(C55)が合成されたが,rthは酵母rer2変異株を相補できず,むしろ野生型酵母に対しても増殖を強く阻害することが判明した.これは,鎖長特性の異なる原核生物型プレノールは酵母のドリコールの機能を代替できないことを示しており,rthが酵母の酵素と基質を競合する,または原核生物型プレノールが細胞にとって毒性を持つことが増殖阻害の原因であると考えられる.
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