本課題の研究対象である中脳のゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)細胞の近傍には太い動脈が複数走行している。そのためトレーサー注入時のわずかな傷が重篤な出血を引き起こし、結果的に実験動物が死亡に至る確率が極めて高く昨年度は成功例は1例しか得られなかった。このため昨年度に引き続き、本年度も硬骨魚類中脳GnRH細胞の近傍にトレーサーの電気的注入を行い、まず成功例を増やした。 トレーサーの注入成功例では、以下の諸領域に逆行性標識細胞が見られた。1)視蓋前域のいくつかの核、2)硬骨魚類における小脳からの出力細胞であるeurydendroid cell、3)三叉神経感覚核、4)前庭覚の入力がある第8脳神経核、5)終神経のGnRH細胞。これらのうち、成功例に共通してみられた標識ニューロンは、eurydendroid cellであった。即ちこのニューロン種が中脳GnRHニューロンへの入力源として最も有力な候補であると言える。 しかしながら、中脳GnRH細胞の近傍には内側縦束とこの線維束の吻側端に位置する内側縦束核が存在するため、線維束を単に通過している軸索からのトレーサー取込みによってeurydendroid cellが標識された可能性があるうえ、実際にこの領域に投射しているとしてもいずれの神経核に終末するかは不明である。このため小脳へのトレーサー注入実験を行ない終末分布を確認したところ、中脳GnRH細胞の近傍に標識された終末が見られた(内側縦束核にも見られた)。即ち、中脳GnRH細胞には運動に関連した情報が送られて来ている可能性が示された。
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