研究概要 |
従来、中枢神経系の神経細胞には再生機能がないと考えられていたが、近年の研究により、軸索の切断や神経細胞の欠落などの障害時には、神経回路の再編成が行われることが明らかとなった。私は、海馬の神経回路網を保持したまま組織培養するという高度な手法を用いて、苔状線維を人為的に切断したところ、切断された線維は約一週間後には形態、機能ともにほぼ完全に回復することを明らかにした。この現象に対し種々の薬理学的検討を行い、苔状繊維の再編成には、cAMP/PKA ・ cGMP/PKG系(J.Neurosci., 21 : 6181-6194, 2001.)、代謝型グルタミン酸受容体(J. Physiol. (Lond.), 539:157-162, 2002)のシグナルが関与していることを示唆した。上記のように私は予定された通りの研究を平成13年度に遂行し、予想されていた以上の多くの知見を得ることに成功した。とくに、代謝型グルタミン酸受容体の関与は注目すべき発見である。従来、グルタミン酸は主要な神経伝達物質として認識されていたが、本研究では、神経回路の形成の調節因子として、新規な役割を見出すことに成功した。これは、同アミノ酸の役割に対する既成概念を覆す重要な知見である。また、苔状繊維の再生過程は、NMDA受容体→AMPA受容体の順に行われ、特にNMDA受容体伝達の再構築は3日程度で十分であることを見出した。本成果は現在投稿中である。この知見は、サイレントシナプスから機能的シナプスへの転換が神経機能再生への律速段階であることを示唆しており、再生医療における新たな医薬ターゲットを提唱している。
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