研究概要 |
味覚嫌悪学習(conditioned taste aversion, CTA)は、味覚刺激に対する快・不快が変換される情動に関連した長期記憶を形成する。CTAの獲得・保持・想起にも遺伝子発現、特に最初期遺伝子であるc-fos蛋白が関連しているか否かを確かめるために、アンチセンスオリゴDNA法を適用し、遺伝子産物産生(Fos蛋白合成)を阻害した効果を行動学的に検討した。c-fos mRNAの翻訳開始部位近傍の塩基配列に相補的なアンチセンスオリゴDNA(AS-ODN)を合成し、それを脳内の大脳皮質味覚野(GC)・扁桃体(AMY)・結合腕傍核(PBN)に微量注入した。それぞれのAS-ODNは、遺伝子翻訳をほぼ完全に阻害していた。味覚条件刺激として0.5M蔗糖を用いて無条件刺激(unconidtioned stimulus, US)として0.15M塩化リチウム(LiCl)を用いたCTAについて検討した。GC・AMYに対するAS-ODNの注入によってCTAの長期的な保持が減弱することが認められた。また、PBNにc-fosに対するAS-ODNを投与すると、獲得過程が減弱していた。また、保持も減弱していた。また、保持テストの6時間前にc-fosに対するAS-ODNをGC・AMY・PBNのそれぞれの部位にに投与しても、CTAの再生には障害を認められなかった。GCおよびAMYのFos蛋白合成をAS-ODNで同時に抑制すると、CTAの獲得にも減弱効果が認められた。現在、USとしてカテコールアミン取り込み阻害剤であるデシプラミンが有効であるか否かをFos蛋白発現の検討と行動学的実験で検討し、その効果をAS-ODNが阻害するか否かを検討中である。
|