研究概要 |
歩行運動の高次制御機序の解明を目的に,これまでに確立したニホンサル歩行モデルを用い,以下の2つの研究課題を行った.1.歩行運動の実行に関わる高次脳部位の同定:高次脳のどの部位が二足歩行(Bp)の実行に関与しているかを同定する目的で脳糖代謝を指標としてPET(陽電子断層撮影法)を用いた研究を展開した.無拘束動物の運動課題実行後にPETによる脳糖代謝測定を可能にするために[^18F](半減期:110分)をglucoseに標識したポジトロン核種([^<18>F]-FDG)を用いた測定プロトコールを作成した.[^<18>F]-FDG静注後30分間の二足歩行運動課題終了後に糖代謝を測定した.運動野,視覚野,小脳に優位な神経活動の亢進が観察された.これらの結果は二足歩行運動の実行には高次脳の複数の領域での神経活動の亢進,すなわち多重並列的な歩行制御機序が必須であることを示唆する.また,四足歩行での神経活動亢進様式はBpのそれとは異なり,各々の歩行パターンに最適な神経制御機序の存在を推察させる.本研究課題の結果の一部については読売新聞(平成13年11月28日夕刊)に記事掲載された.2.歩行運動における大脳皮質運動野の機能的意義:PETにより同定された運動野の歩行制御に関する機能的意義を解明する研究を展開した.このためGABA作動性神経伝達物質であるムシモルを同部位に注入し,その機能を一時的に抑制し,注入前後での歩容の変化を解析する試みを開始した.ムシモルはPET研究で特に活動性の亢進が観察された一次運動野および補足運動野の下肢関節運動支配領域に注入した.いずれの運動野に注入した場合でも,注入後に左右後肢の関節運動の制限が観察され,リズミカルな歩行運動が消失した.また起立時および歩行時の空間内での体幹の維持が困難となった.これらの結果は大脳皮質運動野も直立二足歩行運動の制御に積極的に関与していることを示唆する.現在詳細な運動力学的解析を行っている.
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