研究概要 |
本研究では血管穿刺時に得られる力学情報や血液の接触検知により針の制御を行うための制御系を開発することを目的とした.これまで正常に穿刺できたときの穿刺力波形や電気インピーダンスの変化については同一個体において定性的な再現性が得られている.一昨年度は定量的な再現性を得るために採血針取替毎に発生するカセンサとのクリアランス変化を解消するような独立構造とし,針の位置決めを電動化して装置の精度確保を行った.装置の改良後,ウサギ5頭の後耳介静脈への穿刺実験を通して穿刺力波形の再現性を確認した.また穿刺失敗の原因の多くは穿刺時の血管の逃げや潰れなど穿刺部位組織の変形によるものであった.当初,穿刺部位の皮膚の固定により組織変形の抑制を試みたが軟組織の固定は限界あるため,今年度は変形しやすい細胞穿刺に用いられる振動穿刺法を検討した.実験はピエゾの圧電変形時の慣性により駆動(f=50kHz)するアクチュエータに採血針とカセンサを取り付け,ウサギ3頭(体重約2kg)の後耳介静脈(約φ1-1.5mm)に速度2.5mm/s,皮膚に対して角度約15度で穿刺した時の穿刺力を計測した.振動穿刺時の血管穿刺に要した力は0.149±0.049N(n=9),穿刺時間は4.15±1.08sであった.同様な条件で行った振動を与えない穿刺の場合はそれぞれ0.173±0.045N, 2.26±0.57s(n=25)であった.血管穿刺の際の皮膚組織などの変形は穿刺力が小さいほど抑制されると考えられる.振動穿刺時の穿刺力の減少は約14%であり,あまり大きな減少であるとは言えない.今回は装置の都合で振動周波数や穿刺速度が固定されていたが,調整を行うことで穿刺力減少の可能性が期待された.また穿刺時間が振動穿刺の場合に長くなった理由は皮膚の固定が緩かったことが考えられる.しかしながら穿刺時間が長くなると振動がない場合には穿刺力が大きくなるにかかわらず,振動穿刺時の穿刺力はほぼ一定していることからも穿刺力の減少には針に振動を与えることが効果的であると考えられた.
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