本研究は、皮膚真皮層組織の走行性(方向性)を超音波音速の異方性から検出する手法の確立を目的としている。この走行性は真皮層に含まれる膠原線維の特性に基づくものであり、皮膚表面で多方向に超音波音速を計測すると方向依存性として現れる。そのときの最大音速方向が組織の走行方向であると推定できる。 本研究では、皮膚の計測部位に負担が少なく、皮膚層中に音波を伝搬させる必要性から、超音波探触子の先端に生体とほぼ同じ硬さのシリコン樹脂により音波プリズムを構成した。超音波は音波プリズムにより、表面方向に屈折して皮膚中を伝搬する。このプローブにより皮膚層を模したモデル実験において、表面層音速の寄与の大きな計測値が得られることを確認した。また、臨床的計測のために身体の湾曲部位表面でも計測が可能であるように、プローブの構造的な改善を行い、その効果を検証した。 臨床応用の基礎データとして、ヒトの腕部皮膚面について多地点測定から方向マップを作成し、その結果が従来行われる外力による皺形成から得られる走行方向の推定結果と一致することを示した。さらに、各測定点の音速方向依存性から走行性の方向のみならず、その強さを示す指標についても検討し、可能性を確認した。 これらのモデル実験及び皮膚上での実計測実験により、本方式の臨床応用の実用性を確認した。
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