研究概要 |
本研究ではナノスケールオーダーのバイオメカニクス的観点より,人工臓器等の人工環境における流れ場(せん断応力場)が赤血球の表面微細構造に及ぼす影響に関し検討した.まず,アクリル製2重円筒回転型せん断応力負荷装置(2重円筒のギャップ:100μm)を製作し,ACサーボモータ駆動によりせん断速度10万(1/sec)まで負荷可能な実験装置を開発した.この装置に基づき,ヒツジ赤血球(Ht10,燐酸緩衝液に浮遊)にせん断応力負荷を加えた.せん断速度条件は,1〜10万(1/sec),また,せん断時間は10秒とした.全ての実験は室温下で行った.せん断負荷後の赤血球を直ちにウシ胎児血清と混合,カバーガラス上に滴下し速乾させ原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツAFM SPI3700)にて観察した.観察は大気中カンチレバー共振モードにて行い、走査範囲500nm×500nmで画像化した.その結果,(1)通常では1500(/sec)が溶血閾値と考えられ,ここではこれをはるかに上回る負荷を加えているにも係わらず,赤血球表面で明瞭なヘモグロビン分子の流出痕は検出できなかった,(2)表面粗さ値はせん断負荷とともに有意に上昇した(コントロール0/sec-4.5+-1.6nm, 10000/sec-7.4+-2.6nm, 50000/sec-11.2+-2.2nm),(3)機能分子(の集合体)と考えられる細胞膜表面の粒形状(直径数nm)には大きな変化は見られなかった,ことが分かった.以上のナノスケールオーダーでの表面構造解析結果より,人工臓器内部における流れ場を設計する際の指針とすることが可能である.
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