研究概要 |
(1)AhR及びNrf2遺伝子機能を増強したトランスジェニックマウスの作製 AhRをkeratin14のプロモーターにより発現させたトランスジェニックマウスを作製した.高発現ライン2ラインにおいて,皮膚の炎症と角化の亢進が観察された.(2)ヒト型ダイオキシン受容体マウスの作製 ダイオキシン類に対する感受性とその生体に対する影響は,動物種により著しく異なることが知られている.ヒトにおける感受性と影響のモニタリングを可能にする動物モデルを作製する目的で,マウスダイオキシン受容体の代わりに,ヒトダイオキシン受容体を有する,ヒトダイオキシン受容体(hAHR)ノックインマウスを作製し,その薬剤に対する反応性を調べた.3-メチルコラントレンに対する反応は,hAHRノックインマウスもコントロールマウスも同程度であったが,TCDDに対する反応は前者の方が弱いという結果であった.この結果は,ダイオキシン受容体のリガンドによる反応の特異性が,種により異なること,そして,hAHRノックインマウスがヒトの反応の特異性を再現できる有用なモニター動物として利用可能であることを示唆するものである.(3)AhRおよびNrf2遺伝子欠失マウスの環境異物に対する反応の解析 Nrf2欠失マウスでは,異物代謝系第2相酵素群の誘導が欠落していることから,様々な外来の化学物質により障害を受けやすいことが予測された.解熱鎮痛消炎剤として頻用されているアセトアミノフェン.を投与したところ,Nrf2欠失マウスでは急性肝障害が高頻度に誘発された.また,ディーゼルエンジンの排気ガスに曝露したところ,Nrf2欠失マウスではDNAの塩基の修飾(DNAアダクト)が高頻度に生成されていることが明らかになった.さらに,ベンツピレンの胃内投与によりNrf2欠失マウスではより高頻度に胃癌が発生することが示された.以上の結果から,Nrf2が,実際に生体において,外来の化学物質の代謝に重要な役割を果たしていることが証明された.
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