研究課題
特別研究促進費
パキスタン北西辺境州の仏教寺院遺跡ザールデリーにおいて1999年の発掘調査の際に、伽藍北側の僧院区北側僧房列の1室から出土した130点を超える浮彫彫刻、建築装飾部材の精査、実測、撮影を行なった。また収集した作品に関するデータをデータベース化した。石造彫刻が発見された僧房F/2の入口外側には、炭化した入口横木の框材が原位置に残されていた。また、この僧房の東に隣接する僧房G/2には焼土層があり、この中からやはり炭化木材が検出されている。いずれも寺院造営当時、あるいはそれを下らぬ時期の部材と判断されたため、これらの一部を採取し、樹種同定および放射性炭素による年代測定を実施した。その結果、僧房F/2採取の炭化材はヒマラヤスギ、G/2採取のそれはマツ属に属するもので、また伐採年代は、F/2が前100年から紀元後140年頃、G/2が前160年から後150年頃と考えられるという。ガンダーラ地方における仏教文化はクシャーン朝(1〜3世紀)に隆盛したが、本遺跡の場合、貨幣、年記など遺構の絶対年代を示す資料を欠くため、時代判定には彫刻の様式的研究などとあわせてこのような科学分析資料も活用する必要がある。本測定値は、建築遺構からみた寺院の造営年代がガンダーラの仏教文化が最も繁栄した時期にほぼ合致するということを示唆している。出土した石造遺物の中には、石材そのものが脆弱化しているもの、折損、剥離の甚だしいものが数多く含まれ、修理を含む適切な保存処置を施すことが必要不可欠である。そこで、石造文化財の保存、修復の専門家を招請、遺物の状態を保存科学的視点から調査し、今後の保存・修復措置についての計画案を作成した。併せて、同遺跡の彫刻作品、建築部材に使用されている石材の同定を行なった。石材は遺跡から同種のものを採取し、分析した結果、「含ざくろ石クロリトイド黒雲母白雲母片岩」と判明した。