研究概要 |
【目的】ラット膝関節に拘縮を作製し,その後,関節可動域運動を行い、その組織学的変化を観察する。 【対象・方法】9週齢のウィスター系雄ラット16匹.(体重260g〜285g)を用いた。それらを無作為に4匹ずつ正常群:2週間の通常飼育,拘縮群:2週間右膝関節ギプス固定,治療群:2週間右膝関節ギプス固定後2週間関節可動域運動施行,非治療群:2週間右膝関節固定後2週間通常飼育の4群に分けた。関節可動域運動は,体幹と大腿骨を固定した上で脛骨遠位を持ち,ラットが鳴き声を上げない程度の強さで体幹長軸方向に50秒間持続的伸張を加え,10秒間屈曲位で休止するサイクルを5サイクル2週間施行した。伸張力は約350gであった。それぞれ右膝関節の病理標本を通常のヘマトキシリン・エオジン染色にて作製し,光学顕微鏡にて観察した。 【結果】固定を行った全群で2週間のギプス固定により約30度の伸展制限を認めた。その後,治療群は固定解除直後から早期に回復が見られたが,非治療群も治療群も実験終了時には約10度の可動域制限が残った。滑膜組織は,正常群に比べ拘縮群では滑膜細胞の萎縮,滑膜下層の線維増生,微小血管の拡張とうっ血を認めた。また大腿骨後部の滑膜から軟骨への移行部においては,正常群に比べて拘縮群では大腿骨後部の滑膜から軟骨への移行部において血管の増殖を伴った滑膜の増生,微小血管の拡張が見られた。治療群ではこれらの変化は正常群に近い状態へおおむね正常化し回復傾向を示しており,非治療群では治療群のような回復傾向は見られなかった。各群において滑膜への炎症細胞の浸潤は認められなかった。 【結論】関節可動域運動は拘縮の治療において有効な手段である可能性が示唆された。今後牽引力を変えたり温熱療法など様々理学療法を施行し,どのような治療が拘縮の治療に効果的かを検討し,滑膜以外の関節構成体についてもより詳細に解明されるべきである。
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