研究概要 |
我々はこれまでに,歩行中の「つまずき」や「すべり」に相当する転倒刺激つき左右歩行ベルト分離型トレッドミル(ころぶくん)を開発した。本研究では,この転倒刺激つきトレッドミルによるトレーニングが,地域在住高齢者のバランス機能を改善するかどうか検討することとした。65歳以上の地域在住高齢者29名を無作為に2群に分け,両群ともに週2回15分間のトレッドミル歩行を4週間行わせた。トレーニング群には,このトレッドミル歩行中に,5秒間隔で左右無作為に歩行ベルトを瞬時に減速・加速することで,転倒刺激を加えた。転倒刺激は,1週毎に20%ずつ増加させ第3・4週は一定にした。コントロール群には転倒刺激を加えなかった。開・閉眼片脚立位時間,ファンクショナルリーチ(FR),タイムドアップアンドゴー(TUG),10m最大歩行速度,刺激側・非刺激側前脛骨筋反応潜時を,トレーニング前後および終了1ヶ月後で測定し,有意水準5%にて比較した。トレーニング前後において,トレーニング群では,FR, TUG,刺激側前脛骨筋反応潜時,および非刺激側前脛骨筋反応潜時で有意に能力向上が認められた。コントロール群で有意な差を認めたのは,TUGのみであった。また,トレーニング群における前脛骨筋反応潜時の変化は,刺激側および非刺激側の両側ともに,トレーニング終了1ヶ月後においても維持されていた。 本研究の結果より,転倒刺激付きトレッドミルによるトレーニングによって,地域在住高齢者のバランス機能,特に動的バランス能力が改善されることが示され,また前脛骨筋反応潜時の短縮は転倒回避能力の向上に結びつくと考えられることから,転倒回避能力の向上が期待されることが示唆された。
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