研究概要 |
半側空間無視(以下,無視)とは,大脳半球病巣の対側の刺激に反応せず,またそちらを向こうとしない症状であり,主に右半球損傷後に左無視として起こる.本研究では,その発現機序について空間性注意と運動遂行の連関の側面から迫り,有効なリハビリテーション技法開発を目指した. 主な研究成果は, 1.対称点課題による空間性注意と運動遂行の左方移動改善 無視患者は,右側の点と対称的な位置に左側の点を定位する課題で,視線と手を容易に左方移動できた.右側の情報に基づき交叉性に左空間に反応する場合には,無視があっても左空間の脳内表象が賦活されやすい. 2.線分イメージの記憶と二等分 無視患者は,線分全体を見た場合,長い線分を右に偏って二等分するが、右端と左端の位置についてはほぼ正確に記憶していることを明らかにした。 3.通常の線分二等分時に見ているイメージ 無視患者は,200mm程度の長さの線分では,実際よりも短いイメージを見ている.基底核,前頭葉を病巣に含む例では二等分点に対して左側が短いイメージとなり,前方病変が加わると左側部分の空間表象がより不安定になると考えられた. 4.線分の知覚と主観的二等分点へのアプローチ 無視患者は,線分二等分時,長い線分の左側部分を探索せず,右側部分しか右視野で知覚しない.一方,短い線分は,視線の左方移動により全体が知覚される.知覚した範囲では,二等分は視線が移動してきた方向に偏りやすく,正当な視空間処理ができない. 5.パソコンを用いた無視診断システムの開発 BIT行動性無視検査を液晶タブレット上で実施するBITパソコン版を開発し,妥当性を確認した.本システムは,結果の記録・再生が容易であり,患者への問題点のフィードバックにも有用であった.時間的・空間的遂行過程の分析は,軽度の無視の検出に有用である。また,システムを応用し全般的見落しの改善課題を作成した.
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