研究概要 |
1.北海道において種々の原因で病理解剖に付された競走馬125頭の血清中の抗BDV抗体価の検査の結果,59頭で陽性(47.2%),66頭で陰性(52.8%)であった.このうちP40とP24の両抗原に対する抗体保有馬は全体の24%(30/125),P40のみでは19.2%(24/125),P24では3.2%(4/125)であった.疾患別に見ると,運動障害を示した馬の22.4%,神経症状を示した馬の6.4%,消化器障害では10.4%,呼吸器障害では0.8%,生殖器疾患では1.6%,そのほか5.6%となっている.特に運動障害を示した馬は全体の14.4%が両BDV-P40およびP24に抗体陽性で,ほかの疾患に比べて高い値を示した.運動障害および神経症状をあわせると全体の19.2%(24/125)と両抗原に対する抗体を保有することが明らかになった.さらに,運動障害および神経症状を示す疾患馬はBDV抗体陰性馬に比較して有為に高い値(P<0.05)を示した.59例の抗体陽性馬のうち22例の脳組織を病理組織学的検索とin situ hybridization (ISH)法によるBDV-RNAの検索を行った結果,これらの馬の脳組織には明らかな炎症像や変性像は観察されなかったが,ISH法ですべての症例の大脳,小脳,間脳など広範囲の神経細胞にBDVの遺伝子が検出された.以上の結果は,BDV感染馬における運動障害および神経症状を示す疾患では,中枢神経系におけるBDVの感染が大きく関与している可能性を示唆していると考えられた. 2.馬の運動失調症(wobbler disease)でBDV抗体陽性3例を対象に,特にその小脳について病理組織学的検索と免疫組織化学的検索によるBDV抗原の検出,in situ PCRによるBDV-RNAの検出を行った.その結果,小脳では神経膠線維の増殖が認められた.一方BDV抗原は検出されなかったが,in situ PCRによるBDV-RNAの陽性シグナル像が散発的に証明された.この結果は,向神経性ウイルスで持続性感染をするBDVの病原性の一端を示唆する所見と考えられた.
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